コンタクト

母の思いを知る

小さい頃から野球をやってきて、頻繁にグラウンドに顔を出す親の事がとてもイヤだった。

なんかカッコ悪いし仲間にからかわれる。
また、野球をしている自分の姿を見せるのが嫌だった。
期待しているのが解るだけに、失敗するところを見せたくなかった。
いろんな心理が混ざり合って素直になれない。

グラウンドに来ないで欲しいと言った事もあった。
実は、親にも言った事はないが、高校も離れた学校を選んだ程だった。
歩いて行けるところに野球の名門校があったにも関わらず、実際に選んだのは県外の高校。

今、思えばなんでそんなにこだわったのか不思議なくらいだが、当時は真剣だった。
その頃は、野球をやっている事、その喜び、苦しみ、その他すべて自分だけの問題だと思っていた。

忘れもしない高校二年の時、今思えばくだらない事が原因で練習をボイコットしたことがあった。
最初で最後、初めて野球を辞めようと思ったのがこの時。
あんなに一生懸命だった両親は一言も文句を言わない。

意外だった。

結局、数日で監督・コーチに頭を下げて野球部へ復帰させてもらった。
首脳陣はこれまた意外にも優しく受け入れてくれた。
しかし、一か月程草むしりしかやらせてもらえなかったが、あっさり戻る事ができてホッとした。

この出来事で一番堪(こた)えたのが、母親の一言だった。
洗濯物を干していて、永年洗い続けたユニホームがなくなって、寂しくなり涙がでた と。

汚くて、ドロドロで、汗まみれのユニフォームを毎日洗うのは大変な事だったろう。
これも、元気な証拠だと陰ながら見守ってくれていたとは。

この言葉で初めて気が付いた。
洗濯してくれる母親がいる。
道具を買ってくれる父親がいる。
応援してくれる人がいる。
当たり前に思っていたことが、こんなに幸せな事だった。

後で聞いた話しだか、毎日食事も喉を通らない程クタクタになった息子の姿を見ていられない反面、頑張ってほしいと複雑な気持ちだったと言う。
親の気持ちとしては確かに活躍してくれればうれしいが、元気にがんばってくれる事だけを望んでいたのだった。

時には欲も出るが。

そんな思いに気づくはずもなく、グラウンドに来ないでくれとか、遠くの学校に行くなんて、何を考えていたのかと後悔したこともあった。

しかし、そんな思いにもまた、母親の一言。

「充分楽しませてもらったよ。」

思わず、胸が熱くなった。


~がんばれ 野球小僧たち!